第281回 遺伝子機能解析部門セミナー
(第408回 細胞工学研究会講演会)
 
演題1部 小豆あん粒子が腸内環境に及ぼす影響
 福島 道広 氏(帯広畜産大学生命・食料科学研究部門)

演題2部 隠れ脂肪肝と胆汁酸代謝
 石塚 敏 氏(北海道大学大学院農学研究院)

演題3部 ビタミンDの新たな可能性を探る:カイコ発現とGC/MS分析の応用
 佐藤 匡央 氏(九州大学大学院農学研究院)
 
(1部:小豆あん粒子が腸内環境に及ぼす影響)
 構造上消化しづらい澱粉をレジスタントスターチと呼んでおり、食物繊維と同じような働きをする。つまり、有用菌である乳酸菌やビフィズス菌などを増加させ、短鎖脂肪酸の増加を促し、腸内環境や脂質代謝、腸管免疫などの改善が報告されている。小豆あんには豊富な澱粉やポリフェノールが含まれており、同様な効果が期待できる。ブタ糞便やヒト糞便を用いた大腸発酵モデル試験では、有用菌である乳酸菌やビフィズス菌など短鎖脂肪酸産生菌が増加しており、また肥満のヒトの腸内細菌叢に多く存在するフィルミクテス門が減少、痩せ型のヒトに多く存在するバクテロイデス門が増加していた。その結果、増加した短鎖脂肪酸によりコレステロールや中性脂肪の減少および腸管バリアや腸管免疫の改善効果などが明らかとなった。以上、小豆あんには、ヒトの腸内細菌叢に対して改善効果が認められた。この結果から食事として小豆の摂取は腸内環境に良好な影響を与えることが期待できる。

(2部:隠れ脂肪肝と胆汁酸代謝)
 見かけ上肥満ではないのに肝臓脂質が多い場合に「隠れ脂肪肝」と呼ばれることがある。我々は、摂取エネルギーが増加した場合に特定の胆汁酸が体内で増加することがきっかけとなり肝臓での特異的な脂質蓄積の増加を見出した。高脂肪食を摂取させたラットにおいて、体内のコレステロールが増加することを起点としてステロイド骨格の12位に水酸基を有する胆汁酸であるタウロコール酸の濃度が腸肝循環で増えることを明らかにした。摂取エネルギーを増やさずにこの状況を模倣するため、飼料にコール酸を添加して同様な状況を作り出したところ、食を介するエネルギー収支は対照と同等にも関わらず、肝臓特異的な脂質蓄積を誘導した。この時、肝臓でのVLDL分泌の抑制が起点となり、脂肪酸合成の増加が加わる可能性が示された。これらのことは、体内での脂質の分布が食環境により変わり得ること、隠れ脂肪肝の発症に胆汁酸代謝が関与し得ることを示している。

(3部:ビタミンDの新たな可能性を探る:カイコ発現とGC/MS分析の応用)
 ビタミンDは骨の健康維持だけでなく、免疫や代謝調節にも関与する重要な脂溶性ビタミンである。本研究では、ビタミンDの定量をガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により初めて実施し、高感度な定量法を確立した。また、遺伝子組換え技術を用いてカイコにビタミンDを合成させることに成功し、その中から稀少と報告されているビタミンD様化合物を見出した。現在、この化合物の生理活性を評価するための細胞培養系の確立を進めており、機能解析に向けた基盤の整備を進行中である。本講演では、これらの成果と今後の展望について紹介する。

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