第267回 遺伝子機能解析部門セミナー
(第391回 細胞工学研究会講演会)
演題 転写因子CREBHによる脂質代謝と生活習慣病の改善機構
中川 嘉 氏(富山大学 和漢医薬学総合研究所)


 近年、食生活の欧米化に伴い、生活習慣病患者の増加が社会問題になっている。しかしながら、病気の治療法・薬の開発も長く行われてきたにも関わらず、まだ不十分な状態である。生活習慣病は長い間の栄養代謝の異常が蓄積し、発症に結び付く。この際、最初の変化としては脂質代謝の異常が生じる。そのため、脂質代謝異常を引き起こす分子メカニズムを解明し、改善させることが有効な治療戦略構築に必要と考えられる。
 我々は脂質代謝に関連する酵素群の遺伝子発現を制御する転写因子の解析を行ってきている。その中で、脂質合成を促進させ病態を悪化させるSREBP (Sterol Regulatory Element Binding Protein)と、脂質分解を促進させ病態を改善するCREBH (Cyclic AMP-responsive element-binding protein H)について、遺伝子改変マウスを駆使し、解析を行ってきている。2つの転写因子は相互に作用しあい脂質代謝の恒常性を維持しており、表裏一体の関係にある。
 CREBHは肝臓と小腸にのみ発現しており、肝臓では脂質代謝を、小腸では脂質の吸収を制御し、全身の脂質バランスをコントロールしている。脂質異常症の有効な治療薬であるフィブラート転写因子PPARα (Peroxisome proliferator-activated receptor α)の活性化剤であるが、CREBHはPPARαの活性を制御することでも脂質代謝の改善に寄与するとともに、近年、生活習慣病を改善するホルモンとして注目されているホルモンFGF21(Fibroblast growth factor 21)の発現にも寄与する。このようにCREBHは多面的な作用から脂質代謝を改善させることを明らかにしている。
 本セミナーでは、これまで得られているCREBHによる病態改善のメカニズムについて、紹介する。

 
←戻る


©島根大学 総合科学研究支援センター 遺伝子機能解析部門 shimane-u.org