第122回 平成16年12月7日
(第230回 細胞工学研究会講演会)
演題 不活性X染色体のヘテロクロマチン化とその維持機構
吉田郁也(北海道大学先端科学技術共同研究センター)
 哺乳類の雌体細胞では、遺伝的に等価な2本のX染色体のうち一方が胚発生初期にヘテロクロマチン化して、その上にある大半のX連鎖遺伝子の転写活性が抑制される。X染色体の不活性化として知られるこの現象は、X染色体上のXist遺伝子から転写されるRNAによって引き起こされる。X染色体上に局在したXist RNAによってヒストン修飾酵素などの様々な因子が呼び寄せられてヘテロクロマチンは完成すると考えられている。不活性化現象は、同じ核内にある塩基配列がほぼ同一な2本の染色体のうち一方だけが選ばれてヘテロクロマチン化する不思議さや、体細胞におけるヘテロクロマチンの際だった安定性、それと対照的な未分化細胞での速やかな再活性化など、様々な興味深い問題を内包している。
 我々は不活性化現象の様々な局面の中で、体細胞分裂におけるヘテロクロマチンの維持機構、及び、未分化細胞でのヘテロクロマチン解除機構に興味を持って解析を続けている。ヘテロクロマチンが維持される仕組みを知るためには、ヘテロクロマチンの形成・維持に関する異常を利用すればよいことになるが、そのような異常はこれまでほとんど見出されていない。我々は微小細胞融合法によってマウス体細胞に単独で導入されたヒト不活性X染色体がヘテロクロマチン形成、維持に関わる異常を示すことを見出しその解析を続けてきた。その結果、マウス体細胞中でのヒト不活性X染色体はヘテロクロマチン特有の形質の多くを失っていることが明らかになった。それにもかかわらずヒトX連鎖遺伝子の発現は抑制されており、また微小細胞融合法でこの染色体をヒト細胞へと導入するとすべての異常が解消されて再びヘテロクロマチンが形成されることも明らかになってきた。これまで得られてきた結果から、不活性状態の維持や"記憶"に必要な因子について考察したい。
 
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