ヒトの多くの細胞には「一次繊毛」と呼ばれる、細胞膜から突出した毛のようなオルガネラが存在します。一次繊毛は、長さが数マイクロメートル、太さが約300ナノメートルしかない非常に小さな構造ですが、私たちの体にとって極めて重要な役割を果たしています。一次繊毛には多くの受容体が存在し、細胞外のシグナルを受け取り、細胞内に伝えるための「細胞のアンテナ」として機能しています。一次繊毛が正常に形成され、機能するためには、繊毛内に必要なタンパク質を適切に運ぶ仕組みが必要です。もし繊毛内タンパク質輸送に異常が生じると、「繊毛病」と総称される多様で重篤な遺伝性疾患の原因となることが知られています。
一次繊毛の中には、繊毛内タンパク質輸送装置(略してIFT装置またはIFTトレイン)と呼ばれる巨大なタンパク質複合体が存在しています。IFT装置はモータータンパク質のキネシン-2とダイニン-2によって駆動され、秒速約1マイクロメートルでタンパク質の運搬を行っています。私たちの研究室(京都大学 薬学研究科 生体情報制御学分野)では、過去10年間にわたってIFT装置の研究を行ってきました。本セミナーでは、「観るだけでわかるタンパク質間相互作用解析法(通称:VIPアッセイ)」、「CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集」、「膨張顕微鏡法による超解像イメージング」などの手法を用いて明らかにしたIFT装置の構築様式と機能、および繊毛病発症の分子メカニズムについて紹介します。
上記は前職の京都大学で行っていた研究になります。昨年からは広島大学ゲノム編集イノベーションセンターおよびプラチナバイオ株式会社において、ゲノム編集技術の研究を行っています。現在取り組んでいる、ゲノム編集によるアレルゲン低減卵の開発についても合わせてご紹介します。