第384回 令和4年11月4日(金)
(第260回 遺伝子機能解析部門セミナー、総合科学研究支援センター公開講演会)

演題 日本海に漂着するカイダコの殻の不思議 ~殻の進化と季節来遊魚について~
吉田 真明 氏(島根大学学術研究院農生命科学系 隠岐臨海実験所)
 
 カイダコ類は軟体動物がもつ貝殻を失ったタコ類の1種であるが、メスのみが卵殻をもつことが知られています。この殻は浮遊生活のための浮きとして、また卵保護のために用いられています。カイダコの殻は日本海側では冬に漂着する季節の風物詩として有名でありますが、生体を入手することが難しいため、これまでからの形成過程や関わっている遺伝子の研究がなされてきませんでした。隠岐地域において地元漁業者の協力で、カイダコ類について季節的に安定して標本を得ることができるようになりました。
 今回、新学術研究領域・先進ゲノム支援によるサポートを得ることができ、カイダコ類のアオイガイの全ゲノム解読を行いました。遺伝子解析からアオイガイのゲノム中にある26,433個の遺伝子の中で、44個の遺伝子が貝殻形成に使われていることがわかりました。さらに、カイダコが底生生活から浮遊性生活に移行する過程で起こったゲノム中の遺伝子の変化を見つけることができました。これにより、進化の過程で貝を失ったはずのタコが、どのようにして再び貝殻を作れるようになったのかという進化上の大きな謎を解明することに一歩近づきました。