第382回 令和4年8月5日(金)
(第259回 遺伝子機能解析部門セミナー)

演題 Smek2は三大栄養素代謝を制御しうる遺伝子である
田中 愛健 氏(九州大学大学院農学研究院)
 
 Smek2(SMEK Homolog 2, Suppressor Of Mek)は外因性高コレステロール血症(ExHC)ラットの食事性高コレステロール血症の原因遺伝子として同定された遺伝子である。ExHCラットではSmek2のexon上に10bpの欠損変異があり、機能不全状態にある。起源系統であるSD系ラットおよびCongenicラット(戻し交配によってSmek2を含む4.1 Mbp のゲノム領域をBNラット由来のゲノム領域に組み替えた系統)との比較を行うことで、発症機序およびSmek2の機能を解析した。上記2系統と比較によって、ExHCラットの肝臓ではSmek2の機能不全によって解糖系の律速酵素の一つであるホスホフルクトキナーゼ(Pfkl)の遺伝子発現が低下し、グルコースの利用が低下していることが分かった。グルコース利用が低下するため、新規の脂肪酸合成が十分に行われず、ExHCラットの肝臓トリアシルグリセロール量が低下する。この状態でコレステロールを摂取すると、ExHCラットの肝臓から分泌される超低密度リポタンパク質(VLDL)が、コレステロールエステルに富むβ-VLDLとなる。β-VLDLは受容体との親和性が低いため、血中からのクリアランスが遅れる。以上が、Smek2機能異常による食事性高コレステロール血症の発症機序であった。さらに、マイクロアレイ解析によって、ExHCラット肝臓ではSmek2の機能不全に起因して一炭素代謝(メチオニン代謝)に関連する遺伝子であるサルコシンデヒドロゲナーゼ(Sardh)の発現が大きく低下していることが明らかとなった。その結果、ExHCラットは食事性高コレステロール血症とは独立して、高サルコシン血症、ホモシステイン血症も併発することが明らかとなった。
 以上より、食事性高コレステロール血症原因遺伝子として同定されたSmek2は炭水化物・脂質・アミノ酸のすべての代謝制御に関与しうる遺伝子であることが明らかとなった。