第378回 令和3年11月5日(金)
(第255回 遺伝子機能解析部門セミナー)
 
演題1:植物ホルモン・サイトカイニンによる植物成長制御〜長距離輸送と側鎖修飾の仕組みと役割〜
講師: 木羽隆敏 氏 (名古屋大学大学院生命農学研究科)
 
要旨: サイトカイニンは、植物の細胞分裂促進因子探索の過程で発見された植物ホルモンであるが、生産された細胞やその近傍の細胞に対して細胞間のシグナルとして機能するだけでなく、導管や篩管を介して移動して器官間シグナルとしても働き、細胞分裂・分化、老化、腋芽伸長、環境応答の制御など、植物の成長制御に幅広く関わる植物ホルモンである。このようなサイトカイニンの多岐にわたる作用は、生合成から輸送, 受容・情報伝達にわたる緻密な制御の上に成り立っていることが明らかになりつつある。本セミナーでは、その制御メカニズムについて、器官間輸送(Kiba et al. 2013; Osugi et al 2017)と側鎖修飾 (Ko et al. 2014)に焦点をあてて最近の研究を紹介する。
参考文献:Kiba et al. Dev. Cell, 2013, 27, 452-461; Ko et al. PNAS, 2014, 11, 7150-7155; Osugi et al. Nat. Plants, 2017, 3, 17112

演題2:植物の器官間シグナル伝達を介した鉄吸収制御
講師:田畑亮 氏 (名古屋大学大学院生命農学研究科)
 
要旨: 植物は、一部の根で栄養欠乏を感知した際、他方の根において相補的に吸収量を増加することで、個体全体として取り込み量を最適に保つシステムを保持している。植物は、窒素欠乏応答と同様に、鉄の局所的な欠乏に対しても、このような器官間コミュニケーションによる吸収制御の仕組みを持っている。しかしながら、それを担う分子メカニズムはほとんど明らかになっていない。本セミナーでは、土壌中の不均一栄養環境を模倣したSplit-root培養法を用いたトランスクリプトーム解析を通して単離した鉄欠乏応答性ペプチド分子について、器官間シグナル伝達機構における役割を紹介したい。
参考文献:Tabata et al. Science, 2014, 346, 343-346; Ohkubo et al. Nat. Plants, 2017, 3, 17029