本発表では、国立遺伝学研究所が保有する野生イネ遺伝資源の特徴とともに約1万年のイネ栽培化の過程で生じた様々な変化を種子形質に着目して紹介する。最近になり、野生種や栽培種のゲノム全体を解読する技術が発達したため、ゲノム全体を俯瞰する解析が可能になった。そこで、野生種が持つ多様な種子形質の分子基盤を明らかにすることを目的として、栽培イネ Oryza sativa の直接の祖先にあたる O. rufipogon を用い、GWAS法により多様な種子形質の原因となる遺伝子の単離と機能解析を進めている。このような解析から、日々変動する自然環境や管理の行き届いた栽培環境への適応機構を明らかにするとともに、我々が普段食べているコメがどのように作られたのかを議論したい。
国立遺伝学研究所では、1950年代から世界各国の野生イネ自生地から採取された野生イネ遺伝資源の保存と配布事業を続けている。栽培系統を保存する遺伝資源センターは世界中に数多く存在するが、野生イネ遺伝資源を体系的に収集保存している機関は世界的に見ても、IRRIと国立遺伝学研究所以外にはほとんどない。本発表では、野生イネ遺伝資源を多数保有する拠点としての国立遺伝学研究所の活動も紹介する。(演者記)