Emersonが1940年代に単色光を使って求めた光合成の作用スペクトルは、680 nmより長波長側は突然著しく低下する。このred-drop現象の印象が非常に強かったためか、光合成に有効な波長は一般には 400 - 700 nmとされている(光合成有効放射)。われわれは、変動光が光合成に及ぼす影響の研究途上で、赤色の変動光が光化学系Iを阻害することを発見した。しかし、光合成O2発生やCO2吸収を単独では駆動しない700 nmより長波長の遠赤光が存在すると、変動光による光化学系Iの阻害がおこらなくなった。野外の変動光環境下で植物の光化学系Iに阻害が見られないのは、ふんだんに存在する遠赤色光のためである。さらに、強光と弱光が繰り返すような変動光下では、遠赤色光が存在すると、特に弱光時の光合成活性が高くなることも見出した。強光下では、過剰な光エネルギーは熱として散逸される。強光後の弱光下ではこの機構が速やかスイッチオフされなければ、光合成の効率は上昇しない。遠赤色光は、まさにこの速やかなスイッチオフの役割をはたす。この分子機構を明らかにするために、変異体を使った研究を進めている。これらのデータを示して、分子機作を議論したい。