一般的に大麦は,水溶性食物繊維であるβ-グルカンに富みin vitro試験において酢酸、プロピオン酸、酪酸を増加させることが報告されている。我々は、CSIROが開発した大麦BARLEYmax (BM)を用いて一般大麦品種ヒンドマーシュ(HM)と比較した。試験方法は当研究室で開発された大腸発酵モデル装置を用いて行った。
実験1:2種類の大麦は消化酵素による加水分解により残渣物を回収した。これらを大腸発酵モデル装置に供し、ヒトの腸内細菌叢組成に類似している豚新鮮糞便2%を添加し48時間培養を行った。その結果、BMおよびHM添加区において、pHおよびアンモニア態窒素で有意な低下、また腸内細菌は2種類の大麦添加区でα多様性とβ多様性に同等の有意な差がみられた。しかしながら、残渣物の収率がHMと比べBMにおいて約2.4倍高いことから、量的な優位性を考慮して次に2種類の大麦の腸内発酵特性を比較・検討した。
実験2:2種類の大麦を同様に処理しBM群で2.2倍の残渣物を得た。添加量はBM群3%、ヒHMで残渣物収率をBM群と比較して相当量になるように減らし減量分をセルロースで補った。その結果、BM群において酢酸ならびに総短鎖脂肪酸濃度で有意な上昇がみられ、アンモニア態窒素においても有意に抑制した。腸内細菌叢はBM群においてβ多様性で量的優位性が認められた。以上の結果より、BARLEYmax中の難消化性炭水化物の量的な優位性が腸内環境改善効果をもたらす可能性が考えられる。
(2部:肝臓脂質蓄積に及ぼすオリゴ糖の作用)
難消化性オリゴ糖の生理作用の一つとして肝臓脂質蓄積の抑制が挙げられる。一般に、実験動物で肝脂質蓄積を誘導する系としては、高脂肪食の摂取や、ショ糖あるいはフルクトースを摂取させる実験系が汎用される。これまでに我々は、12α水酸化胆汁酸による肝脂質蓄積モデルを独自に構築した。そこで、この実験系を用いて、消化管でのミネラル吸収促進作用が報告されているDifructose anhydride III(DFAIII)およびビフィズス菌の増殖促進作用が知られているraffinose (Raf)を用い、コール酸(CA)により誘導される肝脂質蓄積を指標として難消化性オリゴ糖の作用を評価した。その結果、DFAIIIの摂取は大腸内での二次胆汁酸生成を抑制する一方で肝脂質蓄積を抑えることはできず、Rafの摂取は大腸内での二次胆汁酸生成を抑制しなかったが12α水酸化胆汁酸の腸肝循環量と肝脂質蓄積をともに抑制した。これらのことから、腸肝循環での12α水酸化胆汁酸量を抑制できる難消化性オリゴ糖が、肝脂質蓄積の抑制に寄与する可能性が示された。
(3部:牛乳の脂肪酸と健康)
乳製品の摂取による健康に関する報告は多くなされている。その中から、カルシウムおよび骨関係の論文を除いた場合は、どの成分が重要であるだろうか? 過去5年間の牛乳と健康に関する論文発表動向(SciVal 2013-2018)における関連word Top50で、乳成分を表す単語は、牛乳タンパク質、カゼイン、脂肪酸、ビタミンD、脂肪、オリゴ糖である。(なぜかカルシウムがない。その代わりにビタミンD研究が入っている。) 基本栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物)の研究のようである。しかし、詳細に見てみると、タンパク質は乳アレルギーの研究が多く、脂質はビタミンDと、普段植物油から摂取できない、短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、分岐鎖脂肪酸、奇数鎖脂肪酸、共役リノール酸といった、マイナーな脂肪酸研究が含まれている。特に奇数鎖脂肪酸については代謝メカニズムに関する見解は非常に少なく、その代謝が他の脂肪酸に比べて遅いことということだけがわかっている。奇数鎖脂肪酸についての最近の研究について紹介する。