ヒトゲノムはおよそ30億の塩基対で構成されており、個人間で塩基配列が異なる箇所が8千万以上発見されている。このような個人間での多様性を示す箇所、いわゆる多型や変異と呼ばれてきたものが、今日の私たちが有する形質や疾患への感受性の個人差を形づくっている。また、ある一個人が保有する多型や変異のほとんどは、両親を末端とする祖先系列で受け継がれてきたものなので、現代人のゲノム多様性情報を俯瞰することにより、個人や集団の由来や進化についての知見を得ることもできる。私たちは、肥満をはじめとした生活習慣病の感受性に関連する多型の探索を進める中で、現代人の痩せやすさに寄与する多型のいくつかが、古代の祖先集団の間では寒冷環境への適応に役立っていたことを示す証拠を得た(1-5)。本講義では、ゲノム多様性から現代人の疾患感受性と進化を理解するための研究手法を概説するとともに、これらの成果についても紹介する。
1) Nakayama K et al Hum Genet,132:201-217 (2013).
2) Nakayama K et al. PLOS One, 8: e74720(2013)
3) Nakayama K et al. J Physiol Anthropol, 36:16 (2017).
4) Nakayama K et al. Mol Biol Evol, 34:1936-1946 (2017)
5) Nishimura T et al. Sci Rep, 17:5570 (2017)