我々は膜脂質や貯蔵脂質を含むユーグレナの脂質分析手法を確立し,膜脂質組成が植物と非常に近いこと,培養条件を変えることでそれらの組成が変化することを見出した。具体的には,光を当てて培養すると光合成を行うための葉緑体が発達し,培地にグルコースを入れると,呼吸活性の上昇によりミトコンドリアが発達するというある意味当然のことを,光合成・呼吸活性の測定,タンパク質含量の定量,膜脂質含量測定,細胞の蛍光観察により定量的に明らかにした(Shibata et al, 2018)。
今回確立した脂質分析手法により,脂肪酸を含むユーグレナの主要なエネルギー化合物がどのように分配されるかを調べることが可能となった。そこで,ワックスエステルが蓄積する嫌気条件で培養した際の炭素分配を調べたところ,光従属栄養条件で培養した株を嫌気条件に移すと,分解された貯蔵物質(パラミロン)のうちおよそ7割がワックスエステル合成に用いられ,残りの3割が別の化合物へと流れていることがわかった(Shibata et al, in preparation)。このことは,この3割の代謝の流れを変えることで,ワックスエステル合成を増強できる可能性を示している。
本発表では,バイオ燃料生産に上記のような基礎研究が重要であること,高生産株を作出した後,実用化のために超えるべきハードルについても議論したい。
Shibata S, Arimura SI, Ishikawa T, Awai K (2018) Alterations of membrane lipid content correlated with chloroplasts and mitochondria development in Euglena gracilis. Front Plant Sci. 9: 370.