(2部) 高脂肪食は胆汁酸分泌を増加させるが、抱合型分子種を含む詳細な胆汁酸代謝の把握はされていない。コレステロールは胆汁酸の前駆物質となるため、試料中にコレステロールや胆汁酸を含まない飼料を用いて、高脂肪食(HF)または高脂肪食・高ショ糖食(HFS)摂取時の正確な胆汁酸代謝を評価するとともに、これらの条件で惹起される血中トランスアミラーゼの増加や耐糖能異常と胆汁酸代謝との関係を評価した。ラットを予備飼育後、基本飼料及びHFまたはHFSを摂取させ、腹腔内糖負荷試験を実施した。その結果、HF及びHFS摂取では胆汁および小腸内容物ではタウロコール酸、大腸内容物および糞中ではデオキシコール酸などの12α水酸化胆汁酸の濃度を選択的に増加させた。さらに、血中や糞中の12α水酸化胆汁酸濃度は、総摂取エネルギー量、内臓脂肪重量、さらに耐糖能異常と有意な正の相関を示した。この時の耐糖能異常は初期段階にあると推察されたことから、12α水酸化胆汁酸濃度の上昇は耐糖能異常の発症初期を判断するための指標となり得ると考えられる。
(3部) 食および運動不足により、内臓脂肪が蓄積し、高血圧、高脂血症、糖尿病等を併発する状態をメタボリックシンドロームと呼ばれる。栄養学的にはエネルギー収支のコントロール、つまり食事制限および三大栄養素バランス(input)と運動(output)を考慮していけば済むはずである。しかし、ヒトにおいて、これらの疾病は生物学的には欲求などの情動の制御が関係すると考えられ、食行動療法および個人遺伝素因をもとにした遺伝子診断による食事指導が考えられている。しかし、化学の側面からは、物理化学的なエネルギー論としてメタボリックシンドローム扱うこと、エネルギー収支を考えることは、肥満対策物質開拓にどのようなアプローチがあるのだろうか? その一つに、腸内細菌のコントロールが近年注目されている。
プロバイオティクスの機能性をヒト介入試験で評価する場合、試験食は発酵乳の形態が推奨される。一方、発酵乳の製造には他の乳酸菌すなわちヨーグルト菌が必要となる。そのため、プロバイオティクス菌であるガゼリSBT2055が、ヨーグルト菌の共存下で生理効果(抗肥満効果)を発揮することができるかどうかを事前に確認する必要がある。この点をモデル動物で検証をした。その結果、内臓脂肪組織中の脂肪細胞の面積の低下が観察された。また、脂肪細胞の肥大化および肥満によって増加する血中炎症マーカー(sICAM-1)の上昇がSBT2055によって抑制された。一方、ヨーグルト菌ではいずれも抑制されなかった。このことから、SBT2055が発酵乳の形態で摂取された場合でもヒト介入試験で抗肥満効果を示す可能性が示された。
SBT2055を含む発酵乳が抗肥満効果を示すかどうかを、肥満傾向の成人(計87名)を被験者としたヒト介入試験(二重盲検無作為対照並行試験)で検証した。試験群の被験者は、LG2055を1グラムあたり10の8乗個含む発酵乳を、1日200g、12週間毎日摂取した。その結果、試験群では、内臓脂肪面積、体重、BMI、胴囲、および腰囲が初期値から有意に減少し、その減少幅もLG2055を含まない発酵乳を摂取した対照群と比べて有意に大きかった。なお、この報告は、ヒト介入試験でプロバイオティクスの抗肥満効果を示した最初の報告となった。
発酵乳中のSBT2055の菌数がどのように影響するか、上述と同様の条件で肥満傾向の成人(計210名)を対象に介入試験を実施した。試験群の被験者は、SBT2055を1グラムあたり10の7乗個あるいは10の6乗個含む発酵乳を、1日200g、12週間毎日摂取した。その結果、10の7乗個および10の6乗個のいずれの発酵乳の摂取によっても、内臓脂肪面積および肥満関連身体指標(BMI、胴囲、腰囲等)が初期値から有意に減少し、その減少幅もSBT2055を含まない発酵乳を摂取した対照群と比べて有意に大きかった。なお、身体指標は、摂取終了後4週経過後の追跡検査で効果の程度(減少幅)が縮小したことから、抗肥満作用を維持するためには継続摂取が必要であると考えられた。
以上により、動物実験およびヒト介入試験を踏まえて、その抗肥満作用は観察されるが、そのメカニズムは、多岐にわたっており、いまだ解明されていない。