第353回 平成29年6月27日
(第232回 遺伝子機能解析部門セミナー)

演題 「活性酸素-Ca2+シグナルネットワーク・オートファジーによる植物の発生・成長・ストレス応答・プログラム細胞死の制御」
   朽津和幸(東京理科大・理工・応用生物科学/イメージングフロンティアセンター)
 
 植物は各細胞の自律的な応答性に基づく分散型の情報処理により個体全体を統御するシステムを進化させて来た。植物免疫、環境ストレス応答、先端成長・発生など植物の高次機能の基盤となる細胞内・細胞間シグナル伝達系、細胞表層における情報統御系の根幹に、活性酸素種(ROS)の積極的生成系とCa2+濃度変化とが重要な役割を担っており、積極的な活性酸素種(ROS)の生成を担うNADPH oxidase (NOX)はそのクロストークポイントに位置づけられる[1-2]。
 陸上植物のNOX/Rbohは、N末端側細胞質領域に二つのCa2+結合性EF-handを含む高度に保存された活性制御ドメインを持ち、Ca2+結合と種々のプロテインキナーゼを介したリン酸化により相乗的に活性化される[3-10]。分子系統解析の結果、陸上植物のCa2+結合ドメインは、植物の進化において藻類が陸上化する直前段階で獲得された可能性が考えられる。ROSの積極的生成の多様な生理的意義、制御機構とその進化の解明を目指して、ROS生成酵素の網羅的解析を進めている。シロイヌナズナの10種のうち、RbohC、RbohH/Jはそれぞれ根毛、花粉に局在し、両者がCa2+により活性化され細胞壁空間(apoplast)にROSを生成することが、先端成長に重要な役割を果たす[4,6,11]。最近、ゼニゴケの2種の欠損変異体を単離したところ、互いに異なる特徴的な表現型を示し、Rbohの生理機能の全貌の理解を目指して解析を進めている。シグナルとしての働きに加えて、NOX由来のROSが細胞表層構造の力学的性質の調節を介して、細胞分裂を伴わない先端成長や、発生・形態形成・生殖等の過程で重要な役割を担うことが明らかになりつつある。ROS生成を制御することにより、植物の免疫力を高めることを目指した、ケミカルバイオロジーによるアプローチも進めている。
 イネの花粉発達過程において、葯のタペート細胞でオートファジーが誘導されること、オートファジー欠損変異株はPCDが抑制され、雄性不稔となることを見出した[11-15]。タペート細胞のPCDにおいて、Rbohを介したROS生成とオートファジーの重要性が明らかになりつつある。種子形成過程における新規表現型も含めて、オートファジーを介した植物の生殖制御について議論する。

[1] Kurusu T et al. (2013) Trends in Plant Sci 18: 227-233; [2] Kurusu T et al. (2015) Front Plant Sci 6: 427; [3] Ogasawara Y et al. (2008) J Biol Chem 283: 8885-8892; [4] Takeda S et al. (2008) Science 319: 1241-1244; [5] Kimura S et al. (2012) BBA 1823: 398-405; [6] Kaya H et al. (2014) Plant Cell 26: 1069-1080; [7] Karkonen and Kuchitsu (2015) Phytochemistry 112: 22-32; [8] Kimura S et al. (2013) J Biochem 153: 191-195; [9] Drerup M et al. (2013) Mol Plant 6: 559-569; [10] Kawarazaki T et al. (2013) BBA 1833: 2775-2780; [11] Kaya H et al. (2015) Plant Signal Behav 10: e989050; [12] Kurusu T et al. (2014) Autophagy 10: 860-870; [13] Hanamata S et al. (2014) Front Plant Sci 5: 457; [14] Kurusu T et al. (2016) Bioimages 24: 1-11; [15] Kurusu T and Kuchitsu K (2017) J Plant Res 130: 491-499.