この輸送系の、細胞増殖の際の機能や細胞当たりの量の維持機構、細胞外環境変化に応じた構造機能変換の機構を理解する上では、それら構造体を構成するタンパク質の生合成・輸送・分解に関する理解が必要となる。特に、タンパク質の経時変化の解析を行うことで、オルガネラの生合成や分解の機構についての理解が深まると考えられる。そこで我々は、紫光の照射で蛍光が緑から赤に変換される蛍光変換蛋白質Kikume Green Red1)(KikGR)およびその単量型変異2)(mKikGR)と、タバコ培養細胞BY-2株の発現系を用いて植物細胞における小胞輸送系の解析を進めている。
さて、植物細胞のゴルジ装置は、典型的な層板構造をとるが、それらが細胞内に分散して存在しており、タバコ培養BY-2株においては、数百から二千個程度のゴルジ装置が1細胞中に存在する。このゴルジ装置の細胞当たりの個数は、対数増殖期の細胞ではほぼ一定であるため、1回の細胞分裂の際にゴルジ装置数も倍加する必要がある。そこでこのゴルジ装置の増加が、既存のゴルジ装置の分裂によるものか、それとも新たなゴルジ装置の形成によるものかを、シス側のゴルジ装置に局在するプロリン水酸化酵素(NtP4H1.1) とmKikGRとの融合体を用いて解析した。NtP4H1.1-mKikGR融合体を発現させたタバコ培養BY-2の懸濁液を、紫光に晒してmKikGRの蛍光を赤色に変換し、引き続き暗所で培養を続け、経時的にゴルジ装置における赤と緑の蛍光を顕微鏡下で定量した。次いでその結果を用いて、ゴルジ装置の分裂と新規ゴルジ装置の合成のそれぞれのゴルジ装置増加への寄与を推定したところ、両機構がほぼ同じ割合でゴルジ装置の増加に寄与していることを見いだした3)。一方、細胞分裂が起らないショ糖飢餓条件に曝した細胞では、新規ゴルジ装置の合成は殆ど見いだされなかった。我々は現在、このmKikGRを用いた解析法を用いてショ糖欠乏により誘導されるTGNタンパク質減少の機構について解析を進めており、その成果につついても紹介する。また、アミノ酸アナログと蛍光標識を用いたタンパク質のパルスチェース実験系の利用も最近開始しており、この方法についても紹介したい。
1) Tsutsui et al., doi:10.1038/sj.embor.7400361
2) Habuchi et al., doi: 10.1371/journal.pone.0003944
3) Abiodun and Matsuoka., doi: 10.1093/pcp/pct014, doi: 10.4161/psb.25027