第324回 平成26年3月6日
(第206回 遺伝子機能解析部門セミナー)

演題 クロロフィルの光毒性を制したプロティストたちー二次植物進化の秘密
 柏山 祐一郎 氏(福井工業大学工学部環境生命化学科)
 
 強い光毒性を有するクロロフィル類の代謝制御は,全ての植物にとって最重要課題である。光合成タンパク質やクロロフィル自体も他の生体分子と同様に「動的平衡」状態にあり,細胞内で絶えず合成と分解が進行しているが,代謝の途上にあるクロロフィル分子は不可避的に強い光毒性を有するため,全ての植物においてクロロフィルの代謝系は厳密にコントロールされていると想定される。
 近年の研究で,陸上植物における紅葉・枯葉時のクロロフィル分解代謝に関して,その全貌がようやく解明されつつある。一方,それら以外の全ての植物,すなわち水圏生態系におけるクロロフィルの分解過程は未解明であった。本講演では,最近の研究で分かってきた,微細藻類食プロティストがその食作用を通してクロロフィルを無蛍光性の「シクロエノール」に代謝する現象を紹介する。この「シクロエノール代謝」は広範な真核生物の系統群に属する微細藻類食プロティストにおいて確認された。さらに,色素体を有する光栄養性ユーグレノイドや渦鞭毛藻においては,単藻培養条件でもシクロエノールを蓄積することが分かってきた。これは,色素体において多量に生合成されるクロロフィルを処分した際の代謝産物であると考えられる。実際,より祖先的な,色素体未獲得の微細藻類食ユーグレノイドの系統では,シクロエノール代謝により餌藻類のクロロフィルを分解することが確認される。
 光合成生物の細胞内共生やオルガネラ化に際しては,ホスト側に必ずクロロフィル起源の酸化ストレスに太守する生理学的なアドバンテージがあった筈である。クロロフィルの代謝分解の理解から,二次植物など複雑化した真核生物の進化の道筋をたどる研究を進めていきたいと考えている。