ところで、それら人に取って「おいしい」成分が、各植物種にとって決まった組織(葉とか、根とか、種子とか)に蓄積していることはあまり意識されていないのではないでしょうか。人はこうした特徴ある成分を特異的に貯める組織を収穫しては生活の中で利用していますが、それらを生産する植物にとっては各成分をそこに貯める理由があって、特異的にある組織に蓄積していると考えられます。
我々の研究室では、天然医薬品も含めてこうした人間にとってメリットのある植物成分がどのように作られ、どうして特異的な組織に蓄積されているのかその機構を明らかにしたいと考えて研究を進めています。植物成分というと、数える人によって違いますが、ざっと20万種類もあると言われますので、すべてに共通の機構を明らかにすることは短時間には無理かと思いますが、モデル植物やモデル化合物をターゲットにして、それらがどのように作られ、どのように貯められるかを明らかにすることは可能であると考えています。それらの中には、作られた場所と全く違うところまで運ばれ貯まるような場合もあります。じっと同じ所に生えて動かない植物は、動物のような血管系を持たないために、あまり気にされることもありませんが、実は独自にこうした「長距離輸送系」を発達させてきていることが分かってきています。
今回は、薬用成分のアルカロイドの代表であるベルベリンやタバコのニコチンなどが、組織内で作られた後、どのように貯まるべきところまで運ばれてたまるのか、そこに関与する分子機構について説明したいと思っています。また、植物の「おいしい」成分が、植物の中でどのように作られているのかに関しても、最近の我々の研究室のトピックからいくつか紹介したいと思っています。(演者記)