2006年に私たちは、ヒャクニチソウ木部細胞分化誘導培養系を用いて、木部の形成を抑制する新規ペプチドホルモン、TDIF(Tracheary Element Differentiation Inhibitory Factor)を発見した(Ito et al., 2006)。TDIFは3つのうち2つのプロリンに水酸基の修飾をもつ、12個のアミノ酸からなる新規のペプチドで、30 pMという極めて低濃度で作用した。このペプチドはCLEファミリーに属し、遺伝子産物のC末がプロセスされてつくられることが分かった。同じファミリーの他の遺伝子も12アミノ酸のペプチドとして機能した(Kondo et al., 2006)。TDIFの植物体での作用機構を調べるために、その受容体を単離同定したところ、細胞外にロイシンリッチリピート構造をもつ膜貫通型のセリンスレオニンキナーゼであった(Hirakawa et al., 2008)。この受容体をTDR(TDIF Receptor)と名付けた。
TDIF遺伝子とTDR遺伝子の発現場所の決定、TDR遺伝子のノックアウト表現型の解析、TDIFの投与実験から、篩部でつくられたTDIFが維管束の幹細胞に働いて幹細胞からの木部の分化を抑制するというクロストークが明らかになってきた。本セミナーでは、このクロストークについて紹介し、植物におけるペプチドの重要性について議論したい。(演者記)