第88回 平成14年8月11日
(第196回 細胞工学研究会講演会)
演題 遺伝子治療のしくみ
佐藤建三(鳥取大学医学部)
 病気の多くは、何らかのかたちで遺伝子の働きがくるってしまった結果引き起こされます。たとえば、アデノシンデアミアーゼ(ADA)という酵素の遺伝子に異常があると、免疫細胞で不要となったアデノシンを排出することができずに、その免疫細胞が死んでしまい、免疫不全症になります。また、細胞の分裂を促進する遺伝子と分裂を制限する遺伝子の働きのバランスが崩れたときに、ガン細胞が発生します。そしてそのガン細胞が増殖し続けると、それまで正常に働いていた臓器を壊してしまい、患者は死に至ります。
 多くの病気は、薬を投与したり、悪い組織を外科的に切り取ったりすることで、治療することができます。しかし、病気の中には、薬が効かなくなったり、手術が困難であったりする病気もあります。その場合、患者さんの病気の細胞の遺伝子の働きを、人為的に変えることで病気を治してしまおうとする試みが、遺伝子治療と呼ばれています。
 遺伝子治療にはさまざまな方法で行われています。前に述べた免疫不全症では、ADA遺伝子を免疫細胞に持ち込むことで病気が改善され、多くの患者が治療を受けています。ガンの遺伝子治療も試みられていますが、ガンに関係する遺伝子は50コとも100コともいわれており、どの遺伝子の異常でガンになったのかは非常に複雑です。それでも中心的な役割をする遺伝子が分かってきたために、遺伝子治療が可能になってきました。ガン抑制遺伝子と呼ばれるp53遺伝子をガン細胞に入れると、そのガン細胞は死滅します。また、ガン細胞だけを攻撃し、そのガン細胞をやっつけてしまうように、免疫細胞を強化する方法もガンの遺伝子治療のひとつです。そのほかの遺伝病や、エイズなどウイルス感染症、生活習慣の結果発症する慢性の病気についても、いろんな治療の試みがなされています。
 遺伝子治療にはまだまだ難しい問題がたくさんあります。たとえば、(1) どのような遺伝子の異常が病気の原因となっているのか、(2) そしてどの遺伝子が正常細胞に悪い影響を及ぼさずに病気の治療に効果的なのか、(3) 病気の細胞をねらって、遺伝子を効率よく導入するにはどのような方法があるのか、(4) 治療が終わったあと、導入した遺伝子はどうなるのか、(5) どのような病気には遺伝子治療が許されるのか、倫理的な問題など、解決しなければならない点がたくさんあります。
 
←戻る


©島根大学 研究・学術情報機構 総合科学研究支援センター 遺伝子機能解析部門 shimane-u.org