第231回 遺伝子機能解析部門セミナー
(第352回 細胞工学研究会講演会)
演題 「光合成膜の常識を覆す:光合成膜脂質は必須か?」
粟井光一郎 氏(静岡大学理学部生物科学科)


 光合成の場であるチラコイド膜は糖脂質に富み,ガラクト脂質であるモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)とジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)がおよそ80%を占める。これは,非光合成生物の細胞膜全般やミトコンドリアなどの細胞小器官ではリン脂質が主要脂質であることと大きく異なっている。この脂質組成は,酸素発生型光合成を行うシアノバクテリアから植物葉緑体まで広く保存されていることから,ガラクト脂質は光合成に必須であると考えられてきた。しかし,植物とシアノバクテリアでは,MGDG合成経路が異なることが生化学的解析からわかっていた。我々は,シアノバクテリアのガラクト脂質合成を担うすべての酵素の遺伝子を同定し,植物とシアノバクテリアで合成経路が異なることを遺伝子レベルで明らかにした。また,それらのうち最後に同定された糖脂質異性化酵素の遺伝子破壊株の解析から,ガラクト脂質が光合成反応やチラコイド膜の構築に必須ではないことを見出した。
 本発表では,シアノバクテリアのガラクト脂質合成経路に関わる遺伝子の同定に際し,用いた比較ゲノム解析手法や苦労した点を踏まえて紹介する。また,明らかとなった遺伝子をもとにした光合成生物におけるガラクト脂質合成経路の分布,合成を担う酵素がシアノバクテリア型から植物型へと変遷していった進化的意義について議論したい。

粟井光一郎 (2015) 光合成生物におけるガラクト脂質合成経路の分布と進化光合成研究 20: 150-160.
Awai, K, Ohta, H and Sato, N (2014) Oxygenic photosynthesis without galactolipids. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 111:13571-13575.
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