第219回 遺伝子機能解析部門セミナー
(第7回 正立型共焦点レーザー蛍光顕微鏡セミナー、
第9回 島根大学バイオイメージング研究会講演会、
第339回 細胞工学研究会講演会)
演題 「すばる望遠鏡から顕微鏡へ:
細胞の運命転換過程の精細なin vivoイメージングを可能にする補償光学顕微鏡」
玉田洋介 氏(自然科学研究機構 基礎生物学研究所 生物進化研究部門)


 多細胞生物の個体発生は受精により始まる。分化全能性を有する受精卵は細胞分裂を繰り返し、さらに分裂した細胞が特定の機能を獲得してそれぞれの体細胞へと分化する。また、一部の細胞は生殖細胞となる過程で初期化され、次世代の受精卵の分化全能性が担保される。こうした、細胞の分化や初期化にはゲノムワイドなクロマチン修飾パターン、いわゆるエピゲノムの変動が不可欠であると考えられているが、その動態はほとんど明らかになっていない。演者らは、高い幹細胞化能を有するコケ植物のヒメツリガネゴケを用いて、ChIP-sequencingによるエピゲノム解析と、単一細胞核ライブイメージングを組み合わせて、細胞の運命転換過程のエピゲノム動態を解明しようと試みてきた。5 ?15 μm直径の細胞核内に存在するクロマチン修飾の動態を観察するためには、高解像度のイメージングを行う必要がある。しかしながら、様々な光学特性を持つ細胞内小器官によって光が乱され、必要な解像度が得られないことが明らかとなった。これは、生きた細胞や組織を観察する際に避けて通れない問題である。この問題を解決して、精細なライブイメージングを可能にすると期待されているのが、天文学にて発展してきた補償光学である。
 補償光学は、大気ゆらぎによる光の乱れを補正することで、地上望遠鏡による精細な天体観測を可能にする技術であり、現在の天文学に必要不可欠な存在となっている。この補償光学を顕微鏡に適用することで、生体による光の乱れを補正して、生体深部の精細なライブイメージングが可能になると期待される。演者らは、基礎生物学研究所と国立天文台との共同研究のもと、補償光学をヒメツリガネゴケのクロマチン修飾ライブイメージングに適用するための研究を行ってきた。天体観測に用いる補償光学をそのまま用いるのではなく、3次元の生体構造が観察対象であるライブイメージングに適した補償光学系を新しく研究し、さらに葉緑体の自家蛍光を参照光源として用いるなどの工夫によって、生きた細胞深部の精細なイメージングに成功した。本講演では、こうした研究について紹介するとともに、今後の発展の方向性についても議論したい。
 
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