第215回 遺伝子機能解析部門セミナー
(第334回 細胞工学研究会講演会)
演題 分裂酵母の有性生殖を制御する情報伝達と遺伝子発現システム
山本 正幸氏(自然科学研究機構基礎生物学研究所)
 分裂酵母細胞が環境の諸条件を感知して体細胞分裂過程から有性生殖過程へと細胞運命を切り替える際には、大幅な遺伝子発現プロファイルの変化が起こる。その最初の段階で中心的な役割を果たすのが、接合・減数分裂のための種々の遺伝子発現を活性化するHMG型転写因子Ste11であり、ste11遺伝子の発現レベルにより有性生殖への不可逆的進行(コミットメント)が決定されると考えられる。とりわけSte11は接合型遺伝子を活性化して接合フェロモンの生産と授受を可能にし、また減数分裂開始のマスター制御因子であるMei2の遺伝子の転写を活性化させる能力をもち、ste11遺伝子を欠く細胞は完全に有性生殖不能となる。
 ste11遺伝子自体の発現は、少なくとも次の4種の情報伝達経路により、環境要因を統合的に判断して決定されている。(1)グルコース(炭素源)の豊富さを反映するサイクリックAMP-Aキナーゼ経路。(2)窒素源の豊富さを反映するTOR (Target of rapamycin) キナーゼ経路。(3)浸透圧や高温など、細胞が受けるストレスを伝達するMAPキナーゼ経路。栄養の欠乏は、増殖に必要な物資の減少として(1)と(2)の経路で認識されるとともに、饑餓という環境変化ストレスとしてこの経路でも認識されていると考えられる。(4)接合フェロモンの授受が成立した際に接合フェロモン受容体を介して活性化するMAPキナーゼ経路。
 以上の4つの制御に加えて、Ste11によるste11遺伝子の自己活性化が知られており、さらに、減数分裂を開始するためにMei2が活性化すると、ste11遺伝子の発現に正のフィードバックがかかり、有性生殖へのコミットメントを増強する機構があることが明らかとなった。また、ストレスを伝達するMAPキナーゼSty1は、RNA polymerase IIのC-terminal domain (pol II CTD)にある7アミノ酸残基リピート中のSer-2をリン酸化するキナーゼCTDK-Iをリン酸化し、活性化していることも明らかとなった。CTDK-IによりCTDがリン酸化されてはじめてRNA polymerase IIはste11 遺伝子を効率よく転写できるようになる。本講演では、ste11遺伝子の発現制御に関わるこれらの機構と、Mei2がもつ減数分裂特異的遺伝子の転写産物を安定化させる役割について概説したい。(演者記)

 
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