第183回 平成23年5月16日
(第297回 細胞工学研究会講演会)
(第3回 正立型共焦点レーザー蛍光顕微鏡セミナー)
(第1回 島根大学バイオイメージング研究会講演会)
演題 植物に学ぶ膜交通経路の多様化機構
上田 貴志(東京大学大学院理学系研究科)
 ゴルジ体やエンドソームなどの単膜系オルガネラは,小胞や小管を介した物質輸送システム,いわゆる"膜交通"を介し,互いに内容物や膜成分の交換をおこなっている。この膜交通は,原始真核生物からヒトや植物を含む現存の生物に至るまで保存された,真核細胞に普遍的な生命活動である。一方で,それぞれの生物の多様な体制や生命現象に応じ,その分子機構や生理的機能は進化し,洗練されてきたと考えられる。最近の比較ゲノム解析の結果は,この膜交通経路の多様性が,Rab GTPaseやSNAREをはじめとする膜交通実行分子の倍加と機能の多様化によりもたらされたことを示唆している (Dacks et al., 2009, Int. J. Biochem. Cell Biol.)。植物の進化の過程においても,陸上化(または多細胞化)に伴い,ポストゴルジ輸送網で機能するRab GTPaseとSNAREの爆発的な増加が起こっていることから,膜交通の多様化と新たな体制の獲得が,密接に関連していると推測されている。しかしながら,RabやSNAREがどのような分子進化を経て新たな機能を獲得し,それらがどのように膜交通網を多様化させたのかについては全く明らかとなっていない。我々は,植物を研究材料に用い,植物細胞における膜交通の分子メカニズムを明らかにするとともに,その多様化と形質の進化がどのように関連しているのかを解明するべく研究を行っている。植物における膜交通経路の多様化がどのように起こったのかを知るためには,植物がその進化の過程で独自に獲得した膜交通制御因子の解析が有効である。我々は,植物特異的なRab GTPase(ARA6)とSNARE(VAMP727)に注目し,これらの機能を,バイオイメージングをはじめとする様々な手法を用いて解析した。その結果,ARA6とVAMP727がともに,エンドソームから細胞膜への輸送経路で機能していることを突き止めた。この輸送経路は,植物がARA6とVAMP727を獲得することにより,新たに開拓されたものであると考えられる。本講演では,この輸送経路の分子機構と生理機能についての最新の知見を紹介したい。

参考文献
1) Ebine K., Fujimoto M., Okatani Y., Nishiyama T., Goh T., Ito E., Dainobu T., Nishitani A., Uemura T., Sato MH., Thordal-Christensen H., Tsutsumi N., Nakano A., and Ueda T. (2011) Nat. Cell Biol., in press
2) Ebine, K., Okatani, Y., Uemura, T., Goh, T., Shoda, K., Niihama, M., Morita, MT., Spitzer, C., Otegui, MS., Nakano, A. and Ueda, T. (2008) Plant Cell, 20: 3006-3021
3) Saito, C. and Ueda, T. (2009) Int. Rev. Cell Mol. Biol., 274: 183-233
4) 上田貴志(2010)生体の科学.Vol.61: 269-275
5) 上田貴志(2008)蛋白質核酸酵素増刊号 メンブレントラフィックの奔流.2295-2300
 
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