第180回 平成23年1月18日
(第294回 細胞工学研究会講演会)(第4回 学生GPセミナー)
演題 植物免疫の分子機構―低分子GTPaseを介したDefensome複合体によるシグナリング
島本 功 (奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科)
 植物は、病原菌の感染について、受容体を介して認識し、様々な抵抗性反応を誘導する。この反応は動物における自然免疫応答と似ていることから「植物免疫反応」と呼ばれる。植物免疫反応を引き起こすための病原菌の認識は2種類の受容体によって行われており、そのひとつはレセプターキナーゼ型であり、病原菌の持つさまざまな細胞成分を認識する。もう一つの受容体は「抵抗性タンパク質」(Rタンパク質)と呼ばれ、このタンパク質を発現する植物は、カビ、細菌、ウイルスなどのさまざまな病原体に対して感染部位で局所的な細胞死を誘導し、病原体を感染部位に閉じ込めて、その増殖を抑制する。「抵抗性タンパク質」により誘導される免疫反応は、植物の免疫反応の中でも最も強いことが古くから知られており、多くの作物の耐病性品種の育成に利用されてきた。ところが、これまでこの「抵抗性タンパク質」の機能についてはほとんど理解されていない。
 われわれは、これまでに細胞内の情報(シグナル)伝達にかかわる低分子Gタンパク質の一種「OsRac1」がイネの免疫応答において分子スイッチとして働くことを明らかにしている。OsRac1が他の免疫関連タンパク質とDefensome「ディフェンソーム(植物免疫複合体)」と呼ばれるタンパク質複合体を形成し、免疫反応を制御することを明らかにしてきた。しかし、分子スイッチタンパク質OsRac1がどのような受容体(センサー)からシグナルを受け、活性化するのかは不明であった。われわれは、OsRac1に結合するタンパク質の探索を行い、いもち病菌に対する「抵抗性タンパク質」を複数同定した。まず、OsRac1の働きを抑制するといもち病に対する抵抗性が低下することから、OsRac1が「抵抗性タンパク質」を介した防御メカニズムにおいて重要な因子であることが明らかになった。さらに、いもち病の「抵抗性タンパク質」のひとつPitは細胞膜上でOsRac1に結合し、OsRac1を活性化することを突き止めた。OsRac1の活性化の結果、殺菌作用がある活性酸素の産生や感染部位で局所的な細胞死が誘導され、病原体を感染部位に閉じ込めその増殖を抑制することを発見した。
 もうひとつの免疫受容体はレセプターキナーゼ型であり、病原菌の持つさまざまな細胞成分を認識する。このタイプの受容体は動物の自然免疫に関与するTLRと呼ばれる受容体と構造が似ている。レセプターキナーゼ型植物免疫受容体の細胞における移行について研究するため、われわれは、まず、イネの免疫反応の分子スイッチとして知られるGTP結合タンパク質OsRac1に結合するHop/Sti1aと呼ぶタンパク質を同定した。Hop/Sti1aは、キチン糖を認識するイネの免疫受容体CERK1に結合することを見出し、さらにヒートショックタンパク質として知られるHSP90が、受容体CERK1と結合することも発見した。Hop/Sti を過剰発現させたイネに、重要病害であるいもち病菌を感染させると、そのイネはいもち病に対して強くなることがわかった。逆に、Hop/Sti1aの機能をRNA干渉法で抑制すると、イネはいもち病菌に対して弱くなった。これらのことからHop/Stiは植物免疫において重要な因子であることがわかった。
 イネ細胞を用いてCERK1受容体の輸送を詳細に観察したところHop/StiとHSP90は細胞内の小胞体においてCERK1受容体と複合体を形成し、ゴルジ体を経て細胞膜へと移行することが明らかになった。受容体の細胞膜への移行を阻害すると免疫反応が低下することも明らかになった。つまり、植物免疫受容体の細胞内輸送にはHop/StiやHSP90などのシャペロンの機能が重要であることがわかった。

参考文献
1. Kawano,Y., et al., (2010) Cell Host & Microbe 7(5):362-375
2. Chen, L., et al., (2010) Cell Host & Microbe 7(3):185-196
 
←戻る


©島根大学 研究・学術情報機構 総合科学研究支援センター 遺伝子機能解析部門 shimane-u.org