アスコルビン酸は、ビタミンCとして老若男女を問わず一般に良く知れ渡った化合物であり、1932年に結晶化されて以降、1970年代のLinus Paulingをはじめ多くの研究者により、動物における生理作用についてはかなりの理解が進んでいる。しかし、我々ヒトにとってビタミンCの供給源として重要な植物は、水溶性酸化還元物質としては最も高いmMオーダーの高濃度で細胞内に蓄積しているにも関わらず、"なぜアスコルビン酸をたくさん持っているのか?"という単純な疑問に対して回答することができない。
植物のアスコルビン酸生合成に関して、1998年にD-マンノース(D-Man)とL-ガラクトース(L-Gal)関連化合物を代謝中間体とするD-Man/L-Gal経路が初めて提唱されて依頼、我々のグループを含めこの10年間でシロイヌナズナを中心にようやくその全貌が遺伝子レベルで解明されたばかりである。また、植物だけでなく光合成真核藻類もアスコルビン酸を豊富に蓄積しているが、その生合成はD-Man/L-Gal経路ではなく、D-ガラクツロン酸を代謝中間体とする経路を辿ることがユーグレナ(Euglena gracilis Z)を用いた研究から明らかになり、光合成生物のアスコルビン酸生合成には多様性があることが示された。生合成経路の全貌が明らかになった今、生合成調節機構の研究もようやく端緒についたばかりである。
本講演では、植物を中心に光合成生物におけるアスコルビン酸研究の進展について、我々の最新の知見も交えて紹介したい。
参考文献
1) Ishikawa, T., et. Al., Physiol. Plant., 126: 343-355 (2006)
2) Dowdle, J., et. Al. Plant J. 52: 673-689 (2007)
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