第167回 平成21年9月4日
(第279回 細胞工学研究会講演会)
演題 ペプチドホルモンを介した篩部と木部のクロストーク
福田裕穂(東京大学大学院)
 植物には、木部と篩部の2つの養分輸送組織がある。この2つの装置がうまく連動してはじめて、植物内の栄養や情報のスムーズな伝達が可能になる。したがって、この2つの組織の形成に当たっては、その密な連携のためにお互いに情報のやりとりをしているのではないかと予想されていたが、情報の実体は不明であった。

 2006年に私たちは、ヒャクニチソウ木部細胞分化誘導培養系を用いて、木部の形成を抑制する新規ペプチドホルモン、TDIF(Tracheary Element Differentiation Inhibitory Factor)を発見した(Ito et al., 2006)。TDIFは3つのうち2つのプロリンに水酸基の修飾をもつ、12個のアミノ酸からなる新規のペプチドで、30 pMという極めて低濃度で作用した。このペプチドはCLEファミリーに属し、遺伝子産物のC末がプロセスされてつくられることが分かった。同じファミリーの他の遺伝子も12アミノ酸のペプチドとして機能した(Kondo et al., 2006)。TDIFの植物体での作用機構を調べるために、その受容体を単離同定したところ、細胞外にロイシンリッチリピート構造をもつ膜貫通型のセリンスレオニンキナーゼであった(Hirakawa et al., 2008)。この受容体をTDR(TDIF Receptor)と名付けた。

 TDIF遺伝子とTDR遺伝子の発現場所の決定、TDR遺伝子のノックアウト表現型の解析、TDIFの投与実験から、篩部でつくられたTDIFが維管束の幹細胞に働いて幹細胞からの木部の分化を抑制するというクロストークが明らかになってきた。本セミナーでは、このクロストークについて紹介し、植物におけるペプチドの重要性について議論したい。(演者記)
 
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