第163回 平成21年3月6日
(第275回 細胞工学研究会講演会)
演題 遺伝子組換え植物研究と社会
鎌田 博(筑波大学遺伝子実験センター)
 Agrobacterium菌による植物細胞の形質転換技術が開発された1980年代半ば以降、多くの植物種において多種多様な遺伝子組換え(GM)植物が育成され、基礎・応用・実用研究の中で活用されてきた。GM植物の利用拡大の過程では、GM農作物の栽培に伴う環境影響やGM食品の安全性確保等、その社会的利用に関するさまざまな議論が行われ、関連するさまざまな規則が定められてきた。2007年の時点では、北米・南米を中心に世界各地で、日本の全耕地面積の約23倍にも相当する極めて広い面積でGM農作物が栽培され、食品・飼料等として世界的に活用されるまでに至っている。
 我が国は、このようなGM農作物の世界最大の輸入国であり、食品あるいは家畜用飼料として大量消費しており、海外から輸入されるこのようなGM農作物がなければ畜産業はおろか、日常の食品供給にも支障をきたす状態であるにもかかわらず、遺伝子組換え食品に不安を覚えるとする消費者が大多数であり、国内での商業栽培の事例は一例もないのが現状である。
 このような状況を何とか改善するためには、GM農作物の栽培に伴う環境影響やGM食品の安全性が国の審議会等できちんと審査され、その安全性が科学的に確保されていることを多くの消費者に知ってもらい、その上で、今後の我が国の食料確保の長期戦略を打ち立てることが緊急の課題となっている。
 このため、GM農作物・食品について国民の理解増進を図りつつ、我が国として必要なGM植物研究を推進するためのロードマップが描かれるようになってきた。本講演会では、このようなGM植物研究の現状、GM農作物の環境影響評価、GM食品やGM飼料の安全性審査、国民の理解増進のための取り組み(中学高校生等を対象とした「教育目的遺伝子組換え実験」の実施など)等、関連する話題を提供し、参加者と一緒に議論をしたい。
 
←戻る


©島根大学 総合科学研究支援センター 遺伝子機能解析部門 shimane-u.org