第120回 平成16年11月18日
(第228回 細胞工学研究会講演会)
演題 細胞内共進化の舞台裏を探る:ゲノムの流動性とプロモーターの発生
小保方潤一(名古屋大学遺伝子実験施設)
 細胞内共生進化の過程では、多くの遺伝子がオルガネラゲノムから核ゲノムに 転移し、核の遺伝子制御系に組み込まれる。この過程は真核ゲノムシステムの 成立・維持・進化にとって重要な意味を持っているが、これまで、それらの過程を解析するのに必要な理論的枠組みや実験系が充分に呈示されていたとは思えない。本講演では、「DNA断片のゲノム間転移」と「新規プロモーターの発生」という二つの問題に的を絞り、演者らの研究アプローチをご紹介したい。 イネゲノムの塩基配列がほぼ明らかになったことで、核ゲノムに挿入されていている葉緑体ゲノムの断片を包括的に解析することが可能になった。私たちは この断片をnupDNA (nuclear-localized plastid DNA)と名づけて詳細に解析したところ、イネでは、葉緑体から核へ向かう定常的なDNA の流れがあることが明らかになった。次に、私たちは、形質転換植物を使って核ゲノムの遺伝子間領域に挿入された新規構造遺伝子がプロモーターを獲得する過程を解析したところ、従来の予想を遙かに上回る頻度で「プロモーターの新生」が観察された。これらの知見は、「DNA断片のゲノム間転移」と「プロモーターの発生」 はともに真核細胞の中で高い頻度で生じる現象であることを示している(演者記)。
 
←戻る


©島根大学 総合科学研究支援センター 遺伝子機能解析部門 shimane-u.org