第400回 令和6年3月2日(土)

演題 cAMPとCoQ10に魅せられて
川向 誠 氏(島根大学生物資源科学部)
 
 島根大学に着任して37年が経過しました。着任前に大腸菌のcAMPの細胞増殖に対する役割を解析していたことから、cAMPの多面的な役割について興味を維持し研究を進めてきました。米国CSHLに留学する機会を得て、RASガン遺伝子を発見したMichael Wigler博士の下で分裂酵母を材料として、Rasとアデニル酸シクラーゼの関連性を調べる研究に従事しました。このことを発端に、分裂酵母のcAMPやRasを介した有性生殖機構に興味をもち、その制御機構に取り組みました。cAMPが合成できないと分裂酵母は栄養枯渇を必要とせず、有性生殖に進行します。分裂酵母の有性生殖の開始は、栄養源の枯渇と相手側の接合体の存在で、成立することから表面的にはシンプルな条件で進行しますが、その背景には非常に多くの因子が関わっています。最終的には転写因子Ste11の制御へと行き着きますが、そこに至るまでのさまざまなシグナル伝達系が存在し、世界中の研究者が取り組んでいます。その中で、我々独自に解析を進めてきたpka1, rad24 ,sla1, msa1, msa2, moc1-4, zds1遺伝子などの機能解析の一端をお話ししたいと思います。
 時を同じくして、コエンザイムQ(ユビキノン)に興味をもち、その合成経路、とりわけイソプレノイド側鎖合成酵素について解析を進めました。大腸菌、酵母、植物、マウス、ヒトに関わらずイソプレノイド側鎖合成酵素が、一義的に側鎖長を決定していることを証明し, CoQ10を本来合成しない大腸菌、出芽酵母、イネでのCoQ10合成に成功しました。分裂酵母はCoQ10を合成することから生産菌としての価値がある微生物です。その側鎖合成酵素がヘテロ型であることを見出し、その発見を基にヒトの側鎖合成酵素がヘテロ型であることを見出しました。この発見は、後にCoQ10欠損症とされるヒトの遺伝病の発見へとつながりました。分裂酵母のCoQ10合成不能株にヒトの相同性遺伝子を導入することで、ヒトのCoQ10合成遺伝子に共通性が高いことを証明しました。分裂酵母CoQ10合成には、少なくとも12種類の遺伝子が関与し、その中にはまだ機能が判然としないものが含まれており、解析が進行しています。分裂酵母CoQ10合成にcAMP経路が影響しており、最終的にcAMP経路とCoQ10合成の制御がつながりました。(演者記)