第396回 令和5年11月9日(木)
(総合科学研究支援センター公開講演会、 第270回遺伝子機能解析部門セミナー)

演題 様々な転写因子による根の成長制御
塚越 啓央 氏(名城大学農学部生物資源学科)
 
 植物は発芽して根を伸ばし、その場で一生を終える。どんなに自身の環境が不利になろうともその場で植物が持つ潜在能力を最大限発揮して、耐え忍び、時にその不利な環境に打ち勝つ。真正双子葉植物の根は長く中心に伸びる主根と、そこから分岐する側根によって幅広い根系を形成する。 根は植物体全体を支える物理的な支持体、土壌から養水分を吸収する役割を果たし、植物の生育そのものを支える「根本」となる。さらには、土壌中の生育環境変化を鋭敏に感じ取り、植物生育に指令を出すセンサーとしての役割も果たしている。このように植物の「根源」である根の成長は様々なシグナル分子によって複雑に、かつ、美しく制御されている。植物ホルモンのオーキシンやサイトカイニンによる根の成長制御系が多く研究され、その成果は根の成長様式の分子メカニズムを解き明かしてきた。
 私の研究室では、植物ホルモンに加え、活性酸素種(ROS)の根端での恒常性が根の正常な生育に必須であり、UPBEAT1と名付けた転写因子が鍵となることを発見した(Tsukagoshi et al., 2010)。また、ROSに応答して転写因子MYB30が極長鎖脂肪酸(VLCFA)の量や輸送を介し、根の伸長に関わることも報告した(Mabuchi et al., 2018)。VLCFAは細胞膜などfundamentalな細胞構造や貯蔵のみならず、転写因子MYB93の発現量を調整して、側根発達に関わるシグナル分子様の役割を果たしていることも発見した(Uemura et al., 2023)。この様に、多くのシグナル分子や転写因子が協調し、もしくは独立して働くことで複雑であるが頑健な根の成長を支えている。このセミナーでは、私の研究室で見出してきた転写因子による根の成長制御メカニズムに関する成果を紹介したい。
 
参考文献: Tsukagoshi et al., Cell, 2010, 143, 606; Mabuchi et al., PNAS., 2018, 115, E4710; Uemura et al., Plant J., 2023, 115, 1408.