第393回 令和5年8月10日(木)

演題 大腸菌の生存と増殖における環境応答システムの役割
山本兼由 氏(法政大学 生命科学部・マイクロナノテクノロジー研究センター)
 
 細菌は単純な単細胞生物であるが、環境に応じた多様な応答で生存する。さらに、その適応のもとで増殖する。この増殖が環境条件のみに依存するのか、生物システムとして制御されているのか、明らかではない。細菌の環境応答システムは、環境変化を感知し、終局的にシグマ因子やレギュレーターがRNAポリメラーゼの機能を変化させ、転写レベルの作用で応答する。また、環境応答システムが形成するネットワークで多様なゲノム機能発現を行う。いくつかの細菌では、増殖に必須な環境応答システムが存在し、これらの応答がDNA複製や細胞壁合成など増殖に必要な遺伝子の発現制御であることが報告されてきた。しかし、マルチゲノム編集技術HoSeI法で単離した多重ゲノム編集大腸菌株の解析から、大腸菌の増殖に環境応答システムのセンサーが不要だった。これらの結果より、大腸菌の生存には環境応答システム自体が必要である一方、増殖には代謝と連携したレギュレーター機能が必要であることが示唆された。