第360回 平成30年2月2日
(第239回 遺伝子機能解析部門セミナー)

演題 「ケトン体サプリメントの事業化とその可能性」
河田悦和(国立研究開発法人産業技術総合研究所)
 
 我々はバイオプロセスの諸課題を解決する手段として、好塩菌Halomomonas sp.KM-1株に注目してきた。この菌は、高塩濃度で生育するため培地を滅菌せずに培養可能であり、広い温度領域で生育できること、高い基質濃度にも対応できること等低コスト化に適した特徴がある。現在までに、8種の化合物を%オーダーの濃度で生産することに成功している。その中で、低糖質ダイエットの主体として注目されているケトン体・3-ヒドロキシ酪酸について、大阪ガス株式会社において、事業化への検討を実施している。3-ヒドロキシ酪酸は、グルコース枯渇時に脂肪酸より肝臓で合成され、代替エネルギー源として脳幹を通って脳細胞においても利用され、特に新生児においては、主たるエネルギー源として用いられている。医療応用としては、難治性のテンカン患者場合、1920年代よりケトン食療法が実施され、多くの寛解例が知られている。さらに、一般にグルコース代謝の不具合が知られる神経変性疾患(アルツハイマー、うつ病、パーキンソン、ALSなど)に対し、代替エネルギー源やそれ自体の機能による治療の効果も期待される。また、アスリートの持久性を向上させるとしてケトン体を誘導する食事が注目され、プロのテニス、サッカー選手などにも愛好者は多い。最近、ケトン体サプリメントを用いて、五輪レベルの自転車競技者の走行距離2%を伸ばした例が報告された。現在、大阪ガスと共同で、ケトン体サプリメントとしての3-ヒドロキシ酪酸の利用を目指し、その生産性、精製純度、光学活性などの向上を検討しており、トンスケールでの生産に成功した。今回は、産総研における研究の内容と、将来のケトン体利用の可能性について紹介する。