第345回 平成28年12月7日
(第224回 遺伝子機能解析部門セミナー)

演題1「シロイヌナズナNudix hydrolaseファミリーの生理的役割」
   小川貴央(島根大学生物資源科学部)
 
 Nudix hydrolase(NUDX)は、ヌクレオシド2二リン酸類縁体に対して加水分解活性を持つタンパク質ファミリーの総称であり、ウイルスからヒトに至る300種以上の生物に、2500を超える遺伝子が存在する。NUDXの基質には、突然変異の原因となる酸化ヌクレオチドに加え、NAD(P)H、FAD、CoAなどの補酵素、およびADP-リボースを含む糖ヌクレオチドなど、多様な生体分子が含まれる。これらは生体毒性分子だけでなく、シグナル分子、還元力の供与体、代謝中間体や補酵素など、生体にとって重要な分子であるが、本酵素ファミリーの生理機能についてはほとんど推測の域を出ていなかった。しかし近年、植物NUDXの研究を通して、細胞内でのNUDXによる種々の生体分子の分解が、環境ストレス下での細胞死誘導や防御機構の発動など、多様な細胞応答と深く関連していることが明らかになってきた。本発表では、これまでに植物の中で最も研究が進んでいるシロイヌナズナのNUDX(AtNUDX)の生理機能について紹介する。
演題2「ベルギーでの研究生活~活性酸素誘導性細胞死に関わる因子の同定~」
   丸田隆典(島根大学生物資源科学部)
 
 活性酸素種(ROS)は強い酸化力を持つ酸素分子種であり、あらゆる細胞成分を傷つけるポテンシャルを持つ。一方、過去20年の間に、ROSは種々の生物学的プロセスを制御するための「シグナル」として必須の役割を担うことが明らかになってきた。そのプロセスの一つがプログラム細胞死である。発表者は、今年8月までの2年間、フランダースバイオテクノロジー研究機関(VIB、ベルギー)において、植物のROS誘導性細胞死に関わる因子の遺伝学的スクリーニングに従事した。本発表では、詳しい研究の目的や成果とともに、ベルギーでの研究生活についても紹介する。