第308回 平成24年7月20日
(第192回遺伝子機能解析分野セミナー)

演題 ニコチン性作動薬結合表面のケミカルバイオロジー
   冨澤元博(名古屋市立大学大学院医学研究科)
 
 ニコチン性アゴニストは化学構造上の特徴から大きく二つのケモタイプに分類される。第一は、天然源アルカロイドであるニコチンやエピバチジン(ニコチノイド)型であり、第二は、合成殺虫剤イミダクロプリドに代表されるネオニコチノイド型である。両ケモタイプはどちらも神経系にあるニコチン性アセチルコリン受容体にアゴニストとして作用するが、ニコチノイドは脊椎動物受容体への親和性が高く、逆にネオニコチノイドは昆虫受容体に選択的である。そこで、この正反対の選択性機構を解明することを目的として、ネオニコチノイド型とニコチノイド型の2種の光親和性プローブを開発し、結合ポケットにおける薬物相互作用を比較解析した。その結果、ネオニコチノイドとニコチノイドは基本的に同じ結合ポケット内に収容されるが、それぞれの薬理活性必須構造部分は180度異なる方向にあるアミノ酸と相互作用していることが判明した(標的タンパク質・薬物複合体の結晶構造解析においても同じ結果を得た)。次に、昆虫と哺乳動物の薬物結合部位は三次元構造的に大差が無いにも拘らず、ネオニコチノイドは昆虫に選択的である原因を探るために、ネオニコチノイド低感受性受容体を対象に光親和性標識を行った。その結果、ネオニコチノイドは脊椎動物の結合部位に対し、2つの全く異なる結合コンフォメーションで相互作用することを発見することができた。すなわち、昆虫受容体では1つの堅固な結合コンフォメーションによる作用がその高い親和性に貢献するが、脊椎動物では、複数の異なるコンフォメーションが混在するために親和性が低くなる。この新しいコンセプトによりネオニコチノイド選択性を説明することができる。さらにニコチン性アセチルコリン受容体タンパク質構造を基盤としたドラッグデザインによりケモタイプの異なる数種類の高活性・高選択性候補化合物群を見出した。(演者記)