第282回 平成21年12月18日
(第169回 遺伝子機能解析分野セミナー)

演題 光受容体の輸送と色素顆粒運動の分子機構-ショウジョウバエ視細胞を用いた細胞生物学的研究-
   佐藤明子(名古屋大学大学院)
 
 膜蛋白質の輸送機構やオルガネラの形成機構は、これまで培養細胞や酵母を用いて活発に研究されてきた。しかし、多細胞生物の生体内で実際に機能している細胞は、より複雑な細胞形態、オルガネラを持ち、高度に特殊化している。このような複雑な細胞形態の形成や特殊オルガネラの形成機構の研究は、最近、ようやく高等動物や植物を使って世界的に始められるようになった。私は、尾崎浩一先生のもとで研究を開始した当初より、ショウジョウバエ網膜を用いてこれらの問題に取り組んできた。私達のシステムは、ショウジョウバエの先駆的な遺伝学・分子生物学的な手法に、 独自に開発した手法を組み合わせた、オリジナリティの高い実験系である。本セミナーでは、私のこれまでの研究の中から、光受容体であるロドプシンの輸送と色素顆粒運動の機構についてお話しする。
 ロドプシンは蛋白質部分を形成するオプシンと発色団レチナールからなるが、小胞体上で翻訳されたオプシンは、発色団11シスレチナールが結合して初めて小胞体から輸送される。私達は、青色光によるレチナールの異性化を用いたロドプシンの輸送開始実験系を開発し、Rab1が小胞体からゴルジ体への輸送に、Rab11/dRip11/MyoV複合体がゴルジ後の輸送に必要なことを生化学的・組織学的に示すことに成功した。このように膜輸送を一気に開始させることができる蛋白質は、極めて珍しい。
 現在、この過程に関与する更なる分子の同定に取り組んでいる。GFP 励起に使う 470nm 照射によりロドプシンは活性型に変化し、Arrestin2と結合する。これを利用して、Arrestin2-GFPによる生体でのロドプシン局在の可視化を行ない、ロドプシンが光受容膜に輸送されない変異体をスクリーニングにより多数同定した。講演前半ではRab11を例にとり、ロドプシン輸送開始系や変異モザイク網膜を使った輸送の解析例を示し、その後、現在進めているスクリーニングを紹介する。
 ショウジョウバエ視細胞内の色素顆粒は明暗で位置が異なり、光順応に貢献している。明所では光受容膜の直下にあり、光受容膜内に入った光を吸収して視細胞の光感度を低下させるのに対し、暗所では光受容膜から離れ、細胞質中に拡散していると考えられていた。私達は、完全暗所固定した組織を観察し、色素顆粒が光受容膜から一定の距離を保ち、光受容膜基部のアクチン繊維の外側に並んでいることを見いだした。更に、光による色素顆粒の光受容膜直下への移動に、ミオシンVとカルモジュリンが必要なこと、Rab 蛋白質の1つ、lightoid がミオシンV を色素顆粒につなぐ役割を持つことを発見した。本講演後半は、 暗視接眼レンズを使った完全暗所固定を紹介し、色素顆粒の移動機構のメカニズムについての結果を示したい。