第165回 平成11年6月15日
(第58回 遺伝子実験施設セミナー)

演題 食品成分によるがん予防へのアプローチ
   大東 肇(京都大学大学院農学研究科)
 
 広範な疫学調査により、発癌の大半は環境因子に起因していることが示されている。中でも食品の占める位置は高く、全発癌因子の35%が食物であると指摘されている。一方、緑黄色野菜の接種が種々の癌でそのリスクを低減させることも示されている。このように、食物は単に発癌に深く関わるばかりでなく、その抑制においても重要な鍵を握っている。
 食品をも含む化学因子による発癌過程は複雑であるが、現在、遺伝子の損傷過程であるイニシエーションと、その後の異常増殖に伴う腫瘍の顕在化過程-プロモーション-の2段階で整理・単純化されている。それぞれの段階には化学的に異なった物質が作用し、前者に作用する物質はイニシエーター(発癌剤や変異原性物質)、また後者に働く物質はプロモーターと呼ばれ、互いに区別されている。(中略) イニシエーション過程は不可逆であるので、すでにイニシエーターの作用を受けた細胞には無効と考えられる。一方、プロモーションは可逆的過程であり、プロモーターの長期にわたる連続的作用が要求される。このことはプロモーションは途中で断ち切ることができることを示している。(演者記 「食品中の生体機能調節物質研究法」より)

 大東教授は、日本国内の食用及び薬用植物のみならず、世界各国の伝統的食材を含め極めて広範な食用及び薬用植物の坑発癌効果を発見されてきました。今回の講演では、最近の進歩を交え、食品による発癌予防について分かりやすく解説していただきます。