第160回 平成11年1月28日
(第53回 遺伝子実験施設セミナー)

演題 酵母の環境応答、グルタチオンによる解毒とグルコースセンサー
   熊谷英彦(京都大学大学院)
 
 (1)酵母I.orientalisは、外来性の毒物ジニトロベンゼンにさらされたとき、その生育をストップし、毒物を分解する酵素グルタチオンSトランスフェラーゼの誘導生成のみを優先的に行う。そしてこの酵素により毒物のグルタチオン抱合体を形成し解毒する。この酵素には2種類のアイソザイムがある。これらを精製し性質を調べた。また、遺伝子をクローニングし、遺伝子レベルでの発現を調べた。菌体増殖が止まった状態で、両者共に誘導的にmRNAの転写量が増大する。
 (2)酵母S.cerevisiaeは環境中のグルコース濃度に対応してその生育を行うが、グルコースをセンスするレセプターはこれまで知られていなかった。最近初めてそのレセプター遺伝子(gpr1)を明らかにした。その遺伝子欠損株や高発現株を作成し、細胞内cAMP濃度変化を指標として、グルコースセンサーとしての機能の実証を行った。(演者記)

 生物の環境応答に関する研究は、細胞の情報伝達機構の解析と制御を始め、内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)や環境耐性生物の育種等、今最も関心が高まっている領域の一つです。本講演では酵母の環境応答について、分かり易く紹介されます。